アラスカの大地で新たな本流竿が活躍

画像日本のサケをターゲットにしたサーモンロッドを新たに開発したという。私は1999年に世界で初めてアラスカのキングサーモンを当時の「遡」で釣って以来、何度もサケ釣り用の竿のテストを重ねてきた。2006年には27.4ポンドというどでかいキングサーモンを「遡パワージャンキー」で釣って、そのパワーの確かさを実証した。今年はさらにそれを上回るパワーのサケ釣り用の竿が開発されたというのである。名前は「遡サーモンハンター」だという。いかにもターゲットに狙いを定めた竿であるが、問題はその中身だ。サケ釣りではまずあの巨大な魚を制御出来る強烈なパワーが要求される。そして、それと同時に軽さや操作性も重要である。とかくパワー重視の竿は、重くなりがちである。半日程度持っただけで腕がちぎれそうな疲労感を与えるような竿では楽しくない。
サケのような恐ろしく引きの強い魚を取り込むには強さは絶対必要だが、強さだけを追求すれば、それは鉄棒のような竿になってしまうだろう。しかし、そうなると猛烈に重くて味も素っ気もない竿になってしまう可能性がある。そんな棒みたいな竿で釣ったところで、面白くも何ともないだろう。自分が常々感じているのは、釣りは趣味である以上、釣っていて楽しい竿でなければならないということだ。いわゆる「釣趣」というものが大事である。漁師なら釣趣など関係ないというだろう。掛けた魚をバラさず確実に取り込めるものであれば十分である。しかし、楽しく釣るにはそれにプラスアルファーの味付けがなければならないのだ。それにはパワーで裏打ちされていながら、疲労感を感じさせない軽さと、軽快な操作性を実現したものであることがのぞましいのである。
画像今回、私に渡された「遡サーモンハンター」を見たとき感じたのは、まず軽さだ。355gと従来の大ヤマメを釣る本流竿並みの重さである。しかも、見た感じも従来のものよりずっと細い。「こんな細身の竿でサーモンがあがるのだろか」という不安が起こるほどであった。
伸ばして軽く振って見ると自重のわりにしっとりとする。この竿の開発者は「これでもサーモンを釣り上げるには十分な強度があります。アラスカでサーモンを掛けたら、思いっきり引っぱりっこしてみてください。問題なく取り込める竿という自信を持っています」と言う。これほどの軽さと細身でアラスカのフレッシュなサーモンを取り込む能力があるのだろうか。しかし、開発者が言うのだから、よほど自信があるのだろう。
その自信は設計にあると言う。「遡サーモンハンター」にはアユ竿で培われたVジョイントやVコブシ設計がなされているから、細身で軽いうえに振ってみた感じも素晴らしい調子に仕上がっているというのだ。
もしこんなに軽くて操作しやすい竿でアラスカのサーモンが上げられるなら、日本のサケ釣りはきっと余裕でこなせることになるだろう。そうした余裕感こそ、ヒットしてから取り込むまでのスムーズさを保証するものである。自分がいつも感じている釣っていて楽しくなる調子の基本を「遡サーモンハンター」がどこまで実現しているか、とても楽しみであった。今回アラスカに行ったのは8月の中旬。すでにキングサーモンの時期は終わっていて、これからはシルバーサーモンが盛期を迎える。私が行ったのは、キナイ川の支流、ロシアンリバーの合流点である。ここはレッドサーモンの釣り場として人気が高い場所で、まだレッドサーモンも沢山泳いでいるのが見えた。しかし、体色は7月初期のような銀色ではなく、すでに赤い色に変わっていて、産卵態勢に近いことを思わせた。


これに対して、レッドサーモンより一回り大きいシルバーサーモンも遡上してきている。アラスカの川ではこうして、種類の違うサーモンがそれぞれ少しずつ遡上の時期を遅らせることで、同じ川でお互いがうまく共生できるように調整しているのだ。
だから、最初にキングが上がってきて、それが盛りを越える頃からレッドサーモンが来る。そして、その後シルバーサーモンがやってくるのだ。今回のロシアンリバーのシルバーサーモンはまだ海から上がったばかりだから体は銀色で、ヒットすればファイトもすごい。一方すでに盛りの過ぎたレッドサーモンは釣れるけど引き味についてはシルバーに一歩譲るため、私は今回の狙いをこのシルバーサーモンに絞った。何度かアラスカに来ていると、レッドとシルバーのいる場所が微妙に違うことが分かる。レッドは比較的岸に近い浅い所を上流に登っていくが、シルバーはこれより少し沖側の深い場所にいる。
サーモンハンターの竿にミチイト5号通し。オモリはアユの0.5号にし、ロシアン専用のフックを撰んだ。ロシアンリバーではあまりサーモンが釣れすぎないよう、ゲイプが狭いフックしか使えない。普通のサーモンフックを使っているのを監視員に見つかったりすると、それこそ留置場にぶち込まれてしまうから、これは守らなければならないのだ。
釣り方はフライのみで、エサ釣り、ルアーとも禁止である。普通はロシアンフックに毛を巻き付けたフライが1本5ドルくらいで売られているからこれを使うのが手軽でいい。しかし、私はロシアンフックにカラフルなヤーンを巻き付けた手作りのフライで挑んだ。
釣り方は、フライを上流側45度くらいの方向に投げ、オモリが石にコツコツ当たる程度に扇状に流していく。ここでフライを引いたり、アクションを与える人もいるが、私は経験からこの効果は薄いと思っている。底石のコツコツを感じながらややフライを流れより少し遅くなるようにして流してやるのがいいのだ。
近くのアメリカ人は皆、ルアーロッドにオモリを付けたフライでイージーに釣っている。そこに妙に長い竿を振り回す東洋人がやってきたことで、奇異な目で皆から注目される。これは前回アラスカに来た時も同じだったが、アメリカ人は本流竿で釣ることを知らないから、皆興味津々なのだ。
そして、仕掛けを流し始めたらすぐにアタリがあった。ルアーロッドに重たいオモリを付けて引っ張り回すやり方ではサーモンも食いにくい。本流釣りの要領でドリフトさせるのがいいのだろう。始めてすぐにヒットさせたことでアメリカ人たちは驚きの声を上げている。サーモンハンターは弓のように曲がり、必死にシルバーの引きをいなす。そのとたんにシルバーは銀色の魚体を輝かせながら、水面をジャンプした。
画像それにしてもシルバーサーモンの引きは半端ではない。氷河の溶けた水が轟々(ごうごう)と流れる急流に乗ってラインを切ろうと暴れ回る。掛けているこちらも必死になって竿を立てて疾走をくい止める。

画像シルバーサーモンはヒットすると、激しくジャンプして走り回るのが特徴である。キングサーモンのような重々しいファイトは無い代わりに、非常にスピーディな動きをするから、それに合わせた竿操作が要求される。

画像シルバーサーモンがヒットしても竿の曲がり具合はこの程度。極めてしなやかで、取り回しがやりやすい。これなら、日本のサケは余裕を持って取り込めるのではないだろうか。

キング並みのすごい引きである。とくにこの場所は流れが速いから奴の抵抗も強烈極まりないものだった。だが、それからが問題だった。リールがないから最後のランディングに入っても魚が重すぎて岸まで引き寄せられないのだ。後ろには木が茂っていて、人間が陸側にバックできない。
日本のサケ釣りならこんな問題はないだろう。陸の後ろの方に下がってズリあげればいいからだ。今回は、そうした場所が少なく、先に釣っていたアメリカ人に場所を譲ってもらって何とかズリあげには成功した。その間、ずっと感じていたのは竿の調子だ。しなやかでパワーがある調子は、サーモンの引きにも余裕を持って対処出来た。軽い割に、パワーがある。私が求めていた「釣趣」のある竿にまさに出来上がっていたと思った。
今後はこの竿の調子が日本のサケ釣りの動向を決めるものではないかと思った次第である。とにかく、釣っていて楽しく、かつ余裕を持ってサーモンのような大物を取り込める竿の出現に感謝したいと思った。


※キングサーモン・・・マスノスケ
※レッドサーモン・・・ベニザケ
※シルバーサーモン・・・ギンザケ

画像リールのついていない竿でどうやってサーモンを取り込むのか、アメリカ人の釣り人は興味津々に私の取り込みを見ている。最初はこんな竿で本当にサーモンがとれるのか、半信半疑であった彼らも私のやり取りを見て納得してくれた。

画像アラスカといえどもサーモンを本流竿で釣るのは容易ではない。リールを使えない長竿だから、それなりのバックスペースが必要である。それにも関わらず、こんなシルバーサーモンを上げたことにアメリカ人釣り人は、驚きの声を上げていた。

画像海から上がったばかりで、銀ピカの魚体を輝かせるシルバーサーモンと、今回大活躍した「遡サーモンハンター」。これだけの細身で軽いというのに、すごいパワーを発揮してくれた。しかも柔軟で扱いやすい。余裕のパワーは日本のサケ釣りに申し分ない。サケに主導権をとられることなく、釣り人の意志のままに扱える楽しい竿であると思った。